~おでんデータから読解く日本 Ver.3~

あるある学1回目と2回目では、中四国、九州のおでんにかまぼこが多く入る理由として、牛すじの煮込み時間と関連付けが推測されることや、牛すじの種類と全国分布図を紹介しました。

3回目は、牛肉に引き続き「肉類の中から鶏肉」についてお話していきます。まずは「クジラのピンチヒッターが鶏肉?」というお話を。

おでんの達人 主婦Aさんのクジラと鶏肉の話

以下は、2018年、西日本で家庭のおでんについてフィールド調査をしている時、偶然、声をかけた主婦Aさんの興味深い話。

大阪府に嫁いだAさんは、嫁いだばかりのころ、義理の祖母に「Aさん家のおでん」を習った時に、おでんの中にクジラがほんの少しばかり入っていたのに驚いたそうです。

不思議に思ったAさん、早速、おでんの中のクジラについて、祖母に質問したそうです。

『戦後、クジラは栄養豊富といわれとても安かったのでたくさんおでんに入れた。牛すじも同じく安かったのでよく入れた。出汁にその2つの種ものから良い風味が追加されて、とてもおいしいおでんの汁ができた。

でも、クジラがだんだん高くなって、いつのころからか、代わりに鶏肉を入れるようになった。鶏肉でもクジラに匹敵するおいしさになる。』と教えてくれたそうです。

そして、それ以来ウチのおでんには鶏肉が定番となったらしいです。と、お話しくださいました。

実は、このAさん、話を聞いていくと、ジャガイモの下ごしらえのスーパーテクニックもお持ちのおでんの達人だったことがわかりました。そのテクニックは、あるある学でのイモ類の回の時に紹介しますのでお楽しみに。

京阪に多いおでん種 クジラの皮と舌

クジラのおでん種では、皮の部分の「コロ:写真左」と舌の部分の「サエズリ:写真右」が王道で、京阪地区でよく見られた種ものです。


コロ、サエズリ

※写真は、しょうゆベースの汁で調理した後の画像です。

コロ:クジラの背側の黒皮とその下の脂肪層を「本皮」といい、本皮を加熱して脂肪分を落とした後に乾燥させたものを「干コロ」といいます。そのほとんどが脂肪分とゼラチン質で、特有のコクがあります。京都のおでんの名店「蛸長」さんでは「炒皮」という名前で提供されています。

サエズリ:脂肪分が多く、舌の根元と舌先では味、歯ごたえが違います。生身を見ると脂身に肉質が点々と見え、“霜降り”の逆状態。余談ですが、筆者はサエズリを初めて食べた時あまりのおいしさに3回おかわりをしました。

大阪府出身の作家は サエズリ好き? 


表紙左:光文社文庫  表紙右:講談社文庫

表紙左:光文社文庫  表紙右:講談社文庫

大阪府出身で芥川賞作家・開高健のサエズリ好きも有名ですが、同じく大阪府出身の小説家・田辺聖子の『春情蛸の足』にも、“さて、酒を注文してから、いそいそと、「蛸。それからサエズリ。こんにゃく」と矢つぎ早やに頼む。”とあります。

詳しくは、
紀文アカデミーおでん教室「おでんと文学のページ」へ
https://www.kibun.co.jp/knowledge/oden/culture/bungaku/index.html

大阪市のおでん屋さん 約30年前は

主婦Aさんの言う通り、筆者がおでん屋さん巡りを開始した30年位前の大阪市内の店舗には、コロを提供するところはたくさんありましたし、コロとサエズリの両方を提供するところも少しはありました。

2018年に、過去に伺ったお店の内のいくつかのお店を訪問した時には、コロだけ提供する店も減り、両方提供するがサエズリは夜限定や数量限定になっていたりと様変わりをしてしまったようです。

おでん屋さんの店主に聞いてみると「クジラはどんどん仕入れ価格が上がって高級品になっていく。大阪の若い世代はおでんでクジラを食べたことない人も多いのでは。」とお話されていました。

おでん専門店でさえに高嶺の花なのに、家庭で入れることは少なくなっているんだろうとちょっぴり寂しい感じがしました。

家庭のおでんにクジラを入れるか聞いてみました

全国の4,700人の主婦の方に行った「家庭のおでんの都道府県別種もの調査」で、「家庭のおでんにコロやサエズリなどクジラを入れるか?」という問いに対して、全国で18人が入れると返答。大阪府、京都府でもわずか1人ずつという結果でした。

それ以外の県の内訳は、福島県、茨城県、栃木県、東京都、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、愛媛県、佐賀県でした。

この結果の背景として、京阪地区でクジラのおでんの外食体験をした方、京阪地区ご出身の方、両親が京阪地区ご出身の方達が、ネットショッピングなどで購入されて家庭のおでんに入れたのだろうと推測もできますが、あまりにも数が少ないので想像の範囲を超えないというのが正直なところです。

《調査概要》
<紀文・47都道府県 家庭の鍋料理調査2023>
■調査日程:2023年7月28日〜8月4日
■調査手法:インターネットによる回答
■調査対象:20代〜50代以上の既婚女性4,700人
■各都道府県100人(各20代25人、30代25人、40代25人、50代以上25人)
■調査機関:株式会社マーケティングアプリケーションズおよび株式会社紀文食品
※おでん種の地域分布図(日本地図)は、上記調査の回答者の内、『昨年の秋冬(2022年9月から2023年2月の間)に、「おでん」をご家庭で作って1回以上食べた方』:1,993人の集計値です。

次回の4回目は、引きつづき、「西日本のおでんと畜肉の種ものの関係(鶏肉 後編)」の予定です。