~おでんデータから読解く日本 Ver.7~


あるある学1回目から6回目では、牛すじとかまぼこ、鶏肉とクジラの不思議な関係、南九州豚肉ロード、じゃがいもの煮崩れない方法などを紹介しました。さらに分付図を用い、西日本の方はおでんに肉類を入れる方が多く種類も豊富であり、いも類を入れる割合も多いこともお話しました。

7回目は、一部の西日本のおでん店で人気の春菊、そして、鍋料理とおでんの関係を少しだけお話したい思います。


「特別展 和食」で感じたこと


2月22日に、国立科学博物館主催する、日本の自然とそこに暮らす人の知恵がメインテーマの「特別展 和食」※に行ってきました。
“発酵女子”の出現、鰹節丼専門店『節道』のオープンなどの世相を反映したのか、「発酵」と「だし」のコーナーはとても混み合っていました。
※「特別展 和食」の東京会場での開催は2月25日で終了しています

また、個人的には、主要な野菜の渡来時期を示すコーナーを興味深く鑑賞しました。
他にも、渡来した大根が品種改良されご当地大根として発展し、その一部の25種が展示されたコーナーは圧巻で、日本人の野菜を始めとする食べ物に対する並々ならぬ思い入れに感動しました。 
余談ですが、海外旅行先で思うことは、野菜や果物で日本のものが一番のおいしいと感じます(特にイチゴ)。


和食といえば大根、大根の種類は800種


国立科学博物館によれば、現代日本で食されているほとんどの野菜が外国を原産地とする植物で、大根は弥生時代、東ヨーロッパ~コーカサス地方より渡来したそうです。

大根は、おせちのなます、たくあんなどの漬物、大根おろし、いか大根の煮物などの和食文化と合致し、品種改良が進んだことで、日本は世界で最も大根の品種が多く、800種類以上あるそうです。
おでんも大根を使用した料理で想起されやすいのか、展示してあったパネルの一番最初に紹介されていました。


おでんに春菊! 九州では人気&おすすめの種ものなの?


読者の方が、野菜のおでん種として、定番の大根以外に思い浮かぶのは、じゃがいもの他、料理雑誌など度々登場したトマト、孤独のグルメで放送されたタケノコでしょうか?

東日本出身の筆者が、西日本のおでん屋さん巡りをしていて驚いたことはこれまでに紹介してきましたが、春菊を供する店舗が多いこともそのひとつで、大阪府、島根県、山口県、福岡県、鹿児島県などで多数出会いました。最近も、少しずつながら増えたように思っていました。

この春菊の現象は、西日本のおでん専門店が東日本発祥の種もの「浮きはんぺん」を置いて関東出身の方のリクエストに応えるため、また、トマトおでんが話題になったのでといった理由で、変わり種や品ぞろえの一品として供するものとは異なると筆者は考えます。


九州での出来事


福岡県北九州市の居酒屋で、「おでんでおすすめの種ものは?」を聞いたら春菊を取り分けてくれました。
また、あるある学4回目で紹介した鹿児島県霧島市のおでん専門店では、春菊が次から次へと発注されていました。
この瞬間が、九州で春菊って人気の種ものなの?と考え始めた時です。

北九州市の居酒屋さんの春菊は関東の春菊とは風味も食感も違いました。
お店の方に聞いたところ、「関東の春菊と違い、葉が大きくやわらかいですよ。かたい茎の部分ありません」と、現物をみせてくれました。
その後、春菊をスーパーで、居酒屋さんで見たものと同じものが陳列されていて、「サラダ用にも」という食べ方がパッケージに書いてあり、腑に落ちた記憶があります。


春菊の来歴


春菊の最初の記録は室町時代なので渡来はそれ以前と考えられており、地中海沿岸地帯が原産地で、ヨーロッパでは観賞用とされ、中国では5~6世紀には食利用されたと記載があります(国立科学博物館調べ)。


春菊の種類 西へ向かうほど大きな葉に


独立行政法人 農畜産業振興会Webサイトによると、春菊は大根ほどの分化は多くはないが、葉の大きさや切れ込みの程度によって大葉種、中葉種、小葉種の3種類に大別できるそうです。

地方によって嗜好が異なり、一般に関西以東では切れ込みの多い品種、関西から西に向かうにつれ、切れ込みの少ない中葉から中大葉、大葉が好まれていて、
以前は関東地方では小葉種が中心でしたが、現在は、くせがなく、栽培がしやすい収量の多い中葉種が主流になったと記載されています。

ここでも、大根に勝るとも劣らない、日本人の飽くなき食材への追及心を感じとれますね。

京都と横浜で春菊を購入し写真を撮ってみました。


京都の春菊、横浜の春菊

購入日2024年2月18日 


『満天☆青空レストラン』で春菊が特集


2024年2月17日放送の日本テレビ系列『満天☆青空レストラン』で、北九州市の「大葉 春菊」が特集され、春菊をかんぴょうで縛っておでん種として食べると放送されました。その春菊は写真のようなものでした。


大葉春菊

写真:PIXTAより


2024年の春菊おでん情報


2月17日・18日に関西で用事があったので、春菊がおでん専門店以外にもあるかを居酒屋のおでんで確認してみました。

居酒屋のおでんは、おでん鍋を置くスペースやオペレーションの都合上、おでん専門店ほど種もの種類は多く揃えないことが多いにも関わらず、いきあたりばったりで訪問した3店中2店で春菊か水菜がありました。

今回は訪問店数が少ないので、あくまでも顕在化した現象しかお話できませんが、これからも”春菊パトロール”活動は続けていきたいと思っています。


家庭のおでんの用意率:春菊の県別ランキングは?


全国平均1.2%。用意する県は上位から石川県、三重県、島根県、沖縄県、徳島県、山形県、福島県、福岡県、群馬県、東京都、広島県、岩手県、熊本県、京都府、佐賀県、福井県、岐阜県、愛媛県、高知県の19県だけで、東西で偏りもなく、家庭での普及率はとても低いです。
(調査概要は当ページの一番下に記載)


家庭でおでんに春菊を取り入れてみましょう


おでん店では見受けられますが、家庭での採用率はまだまだの春菊。

女子栄養大学 栄養クリニック教授の蒲池恵子さんは、「おでんには、緑黄色野菜を入れることがあまりないので、おでんの副菜としては、青菜のおひたしがおすすめです。不足しがちなカロテンが摂取できるうえに、箸休めにもなります。」と言っています。

蒲池さんのおでんと栄養のページはこちら

おひたしでもいいですが、春菊はアクが少ないので、おでんに直接入れることができます。下ゆでする手間が省け時短にもなり、おでん鍋の彩りもぐんとよくなります。


松江風おでん


写真は島根県松江市の名店のおでんを参考に、郷土資料館にお勤めの方などにインタビューして、紀文で再現した松江風おでんです。
郷土記念館の方は、「松江のおでんはすっきりとしたおでん汁なので締めにうどんを入れる」とお話されていました。

松江市はおでん屋さんが多い街と言われ、2012年には松江市が主催する「全国おでんサミットin松江」が開催されました。
その際、おでん店が提供する「松江おでん」の特徴は、「黒田セリ」や「春菊」などの葉物の野菜が入り、葉物野菜は色が悪くなるため、注文を受けてからおでん鍋に入れ、ほど良いところで皿に盛って出されると説明をいただきました。


松江おでん

2018年 東京で再現したため、春菊は関東のものを使用


おでんの春菊は鍋物から派生???


かき揚げ、和え物などはもちろん、春菊は、すき焼きや湯豆腐、豚しゃぶなど、定番の鍋料理に欠かせません。

鍋料理とおでんの関係性を探求することは、おでんの地域差を紐解くうえで重要なポイントになると筆者は考えています。


西日本の鍋料理とおでんの特徴


関西の「湯豆腐」「はりはり鍋」「鴨鍋」、福岡「水炊き」など伝統的なご当地鍋料理が数多くあり、特筆すべきは、「しゃぶしゃぶ系鍋」「すき系鍋」は西日本が発祥とされています。
これらの特徴として言えるのは、昆布だしを使ったすっきりとした鍋が多く春菊や水菜などが利用されることや、肉がメインの鍋が多いことです。

また、おでん種として定番の種もの他、牛すじ、鶏肉、豚肉などの肉類、いも類、葉物が利用されます。


湯豆腐、はりはり鍋、鴨鍋、水炊き

東日本の鍋料理とおでんの特徴


東日本では、北海道「石狩鍋」、青森「たらのじゃっぱ汁」、宮城「かき鍋」、茨城「あんこう鍋」、東京「柳川鍋」「ねぎま鍋」など魚を使った伝統的なご当地鍋料理が多く見られます。
味付けはしょうゆ味やみそ味ベースで、汁にしっかりとした味付けのものが多いです。

また、おでんには関西であまり食されない「はんぺん」「つみれ」などが入り、練りものの種類が多く、東北と北陸では山菜も入ります。


石狩鍋、つみれ鍋、ねぎま鍋、柳川鍋

鍋とおでんの相関関係の推測


西日本は、関西の昆布だし文化の発展に伴い、しゃぶしゃぶなどの素材の味を楽しむ鍋料理が多く、水菜や春菊などの野菜をよく入れることがあること。また、牛肉や鶏肉をそのだしで調理する方法も関西から生まれたように畜肉と和風料理の関係性が高いこと。
さらには、南九州で豚肉をおでんに入れるのは、養豚業が盛んであることの他に大陸や琉球文化の影響を受けたと推測されます。

東日本については、江戸庶民のファストフードと呼ばれた魚を食す寿司、蒲焼き、天ぷら文化が花開き、そば・蒲焼きのかつおだしやしょうゆやタレを使った料理も生まれたように、しょうゆがとても身近であり、練りものをかつおだし、しょうゆ、みりんで煮たおでんも発展したのであろうと推測されます。


次回


前回、昆布と西日本のおでんまとめと西日本で一番驚いたことを紹介しますと書きましたが、「特別展 和食展」を見学し日本の野菜の素晴らしさに感動、そして、関西で春菊おでんの巡回をしたのでついついその話をしてしまいました。
昆布などの話は次回にいたします。


《調査概要》
<紀文・47都道府県 家庭の鍋料理調査2023>
■調査日程:2023年7月28日〜8月4日
■調査手法:インターネットによる回答
■調査対象:20代〜50代以上の既婚女性4,700人
■各都道府県100人(各20代25人、30代25人、40代25人、50代以上25人)
■調査機関:株式会社マーケティングアプリケーションズおよび株式会社紀文食品
※おでん種の地域分布図(日本地図)は、上記調査の回答者の内、『昨年の秋冬(2022年9月から2023年2月の間)に、「おでん」をご家庭で作って1回以上食べた方』:1,993人の集計値です。