1. 新しいスタイルのおでん店に
  2. 同じエリアに「花串」6店
  3. 若者もおでんが好き
  4. 迷ったらお客さま目線で
  5. 開発したおでんは数百種
  6. 完成まで3日かかる大根
  7. 練りものは紀文ブランド
  8. 花串イズムの精神

岐阜駅から歩いて数分のところに「住田町繊維街」という商店街があります。繊維業の衰退により、シャッター通りとなっていたこの街に、2008年、1軒のおでん店がオープンしました。串とおでんの店「花串庵」です。この店は若者たちの間で評判となり、その後、同じエリアに5店舗の「花串」ブランドのおでんを中心とした飲食店が登場。現在、この商店街は“おでんの街”として活気にあふれています。その仕掛け人こそが、オーナーの小野木浩司さんです。

新しいスタイルのおでん店に

木の温もりを感じさせる洗練された「花串庵 スミダマチ」店内
木の温もりを感じさせる洗練された「花串庵 スミダマチ」店内

2008年に「花串庵」をこの商店街でオープンさせたとき、ほかに営業している店はわずか数軒だけという通りでした。ここは私の地元でもあるので「おでん」を通じて活気のある街にしたかった。私はこれまで岐阜一の繁華街・柳ヶ瀬やロードサイドで店を切り盛りしてきました。その知識や経験をもとに、お店の内装や料理の演出など、すべて若者を意識してこの店をつくり上げました。

同じエリアに「花串」6店

通りに「本家 花串庵」「花串バル」「元祖 花串庵」「焼鳥花串」「花串庵 スミダマチ」が並ぶ、まさしく《花串横丁》
通りに「本家 花串庵」「花串バル」「元祖 花串庵」「焼鳥花串」「花串庵 スミダマチ」が並ぶ、まさしく《花串横丁》

開店すると連日超満員で、予約の取れない店となりました。みなさん新しいタイプの「おでん」を求めていたんですね。お越しいただいてもお店に入れないことが申しわけなくて、近くに姉妹店を出店するようにしました。その後、ふらっと入れる屋台風の店、いわゆる「せんべろ」の店、デートにも使える洗練された店……などスタイルを変えて出店。現在、この商店街に「花串」ブランドは6店舗。スタイルは変えても全店でおでんを提供しています。

「花串庵 スミダマチ」店
「花串庵 スミダマチ」店

若者もおでんが好き

「花串庵」を若者向けのおでん店にした理由は簡単です。おでん専門店のイメージは「高級店型」か「赤ちょうちん型」に二分化していると思うんです。高級店型ではメニューが「時価」という店もあり、敷居が高い。一方、赤ちょうちん型はおしゃれ感に欠ける。若者が気軽に入れるおでん専門店が少ないと感じていました。しかし、若者がおでんを食べないかというと、コンビニエンスストアのおでんは若者に売れています。だったら、コンビニのおでんにちょっとプラスした値段で食べられる店があればヒットするのではと考えたわけです。

人気のおでんベスト5。「大根」「餅巾着」「ちくわ」「ロールキャベツ」「厚揚げ」
人気のおでんベスト5。「大根」「餅巾着」「ちくわ」「ロールキャベツ」「厚揚げ」
「花串庵 スミダマチ」入り口に構える、竈(くど)に設置した迫力のおでん大鍋
「花串庵 スミダマチ」入り口に構える、竈(くど)に設置した迫力のおでん大鍋

単においしいおでんを提供するだけでなく、お客さまに「驚き」や「感動」をプラスして提供したい。そのために、どの店も入り口を開放的にして店内が見えるように。そして店のいちばん目立つところに「おでんの大鍋」を設置して、シズル感を演出しています。おでんの具材や一品料理となる「湯葉」も、すべて店内で手作りしています。皿の盛りつけも立体的にするなど「驚き」のあるものに。それらが合わさって、「これまでのおでん屋とは違う」と人気を得ることができたのでしょう。

迷ったらお客さま目線で

値段設定で迷ったら、お客さまの喜ぶ顔を思い、お客さまの目線に立って考えるようにしています。たとえば「車海老のおでん」。注文が入ると、いけすの車海老を使って調理します。これを490円(2020年2月現在/税別)で提供。利幅はほとんどありませんが、それでも構わないと思っています。そうやってほかの店と差別化することでお客さまに愛され、50年、100年と続いていくお店になればいいと。

驚きの価格で提供している「車海老のおでん」
驚きの価格で提供している「車海老のおでん」

開発したおでんは数百種

おでんメニューの豊富さや、手間をかけてつくり上げたこだわりは、どのおでん店にも負けない自信があります。夏でもおでんはすごく売れますよ。意外かもしれませんが、いちばん忙しいのは12月で、次が8月なんです。定番のおでん以外に、旬を感じる季節限定の「寒ぶりのしゃぶしゃぶおでん」や、肉系の「仔羊のおでん」などもあり、ほとんど私がメニューを考えています。かれこれ数百種。「ラーメンのおでん」という変わったものもあります。メニューは素材の組み合わせが妙だったり意味のあるものにしたい。そうすることで「花串のおでんはやっぱり違うね」と言ってもらいたいですからね。

オーナー自ら開発した「仔羊のおでん」
オーナー自ら開発した「仔羊のおでん」

完成まで3日かかる大根

じっくりと煮込んで作られる自慢の大根
じっくりと煮込んで作られる自慢の大根

うちのおでんの大根は日本一です。私の熱い魂で作っていますから。お客さまに出すまでに2〜3日煮込みます。まず、1日煮込んだ大根は、一度、鍋から取り出します。そうすると大根からだしがあふれ出てくるので、そのだしを捨てて、冷蔵庫に入れて熟成させます。そして、また鍋で煮込むという作業を最低でも2日。こうして熟成させることで、味がまったく変わるんです。大根も毎日、市場でいちばん太くていいものを仕入れています。おかげさまで年間約30万個のオーダーをいただいています。

練りものは紀文ブランド

私は岐阜一の繁華街、柳ヶ瀬の老舗おでん店で修業し、1989年に独立しました。「花串庵」では修業時代に使用していた練りものを使っています。紀文の「はんぺん」「ちくわ」「イカ天」「ごぼう天」「生姜天」で、築地にある紀文の店舗から直接仕入れています。やっぱり、味がよそとは全然違う。おいしいですね。

お店で出している紀文ブランドの練りもの
お店で出している紀文ブランドの練りもの

花串イズムの精神

「花串イズム」を引き継ぐ「花串庵 スミダマチ」永田店長
「花串イズム」を引き継ぐ「花串庵 スミダマチ」永田店長

すべての店名に「花串」をつけています。店ごとにまったく違う名前にする店舗展開もあるようですが、私はそれでは「愛」がないように感じて。私は値段や効率だけを求める店にしたくないんです。手間をかけた特徴のある「おでん」を主役に置いて、人の温かさを感じるくつろぎの空間を演出する──それが「花串イズム(花串庵らしさ)」です。その精神は各店長はもちろん、スタッフとも共有しています。私が各店舗をしょっちゅう巡回して見て回っているのは、おでんの減り具合を見るのもありますが、スタッフとのコミュニケーションもあるのです。

プロフィール
小野木浩司(おのき・ひろし)

居酒屋dining「花串庵(はなくしあん)」オーナー。 1960年、岐阜県生まれ。柳ヶ瀬の老舗おでん店で修業後、1989年に「花串庵」を開業。2008年、岐阜駅前の住田町繊維街に「花串庵」をオープン。現在、この商店街で6店舗、ほかに2店舗の「花串」ブランドを展開する。

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