あったかい料理でもてなしたい
大学生くらいから芝居を始め、卒業後も劇団で役者を続けていたんです。子どもの頃からモノ作りが好きで、劇団でもまかないごはんやイベントでの料理を担当していたの。実家にいるときは料理なんてまったくしなかったけれど、作ってみるとけっこう楽しくて。私はお酒が好きで、劇団のスタッフや友人を小さな部屋に招いてよくもてなしていました。ときには知り合いだけではなく、その友だちが来ることも。大人数でわいわい食べるときは、あったかいものがイチバン。心も体もあたたまる鍋料理が食卓の中央に鎮座していることが多かったですね。
料理研究家になって、紀文さんとの出会いも「ワインに合うおでん」のお仕事だったんですよね。
おでんに心ひかれる理由
私はおでんが大好き。とくに、みんなと家でおでんパーティー「でんパ」をするのが好きなんです。友だちを呼んで、わいわいと鍋を囲み、食べたり飲んだりする……それがとっても楽しい。過去最大の「でんパ」は、知り合いやその友だちが20人ほど集まったとき。8畳ほどの部屋のテーブルを片付けて座り、玄関に入りきれない靴は積み重なった状態。なんと3キロ煮た牛すじや大量に買った練りものが、あっという間に売り切れ! おでんというのは不思議なもので、鍋の中に練りものを入れると、いっぺんに「おでん」になる。逆に練りものがないとおでんっぽくないですよね。
デートで行ったお店で開眼
冬になると必ず、大きなアルマイト製の鍋で、おでんをコトコトと煮込んでくれた母の姿が懐かしいですね。正月もおせち料理のほかにアルマイト鍋のおでんが。大勢の人が集まるにぎやかなときに、おでんがあると安心だったのでしょうね。初めて外でおでんを食べたのは、父に連れられて銀座にある老舗おでん屋さんに入ったとき。醤油味の関東風でした。塩味おでんを初めて食べたのは、大人になって当時の恋人と行った代々木のおでん屋さん。塩味の澄んだスープのおでんは、目からウロコ。その粋な感じの味に近づきたくて、牛すじを煮てみるなど試行錯誤をくり返しました。友だちを招待して、おでんパーティーをするようになったのも、塩味おでんがきっかけです。
塩味の野菜たっぷりおでん
今では私が作るおでんは、ほとんどが「塩味」です。練りものや玉子、こんにゃくなど定番のおでんの具以外に、季節の野菜をたくさん入れてポトフ風に仕あげます。塩味おでんだと野菜に合います。冬だったらかぶや春菊などを入れると、とてもおいしくなって、塩味が初めての人も「うまい!」ってお代わりしてくれます。先日も外国から来た方に塩味おでんを振るまったら、とても喜んでくれました。おでんは世界に誇れる料理だと思います。「Sushi」「Sukiyaki」「Ramen」の次は、ぜったい「Oden」が来ます!
お酒に合う・塩味、おふくろの味・しょうゆ味
「塩味おでん」は鶏ガラスープとかつお昆布出汁を合わせて、塩で調味しています。鶏ガラスープを仕込むのにちょっと時間がかかりますが、たっぷり作って冷凍し、すぐ使えるようにしています。冷凍で保存できますし、凝り性のおやじさんが作るようなおでんになって、お酒との相性もばっちり! 一方、私の母が晩ごはんのおかずとして作ってくれたのは、しょうゆ色のおでん。「関東煮」とも呼ばれる、練りものがいっぱい入ったおでんです。こちらは「ザ・おうちおでん」で、思い立ったらパッと作れるのがいい。時間のかかる大根は電子レンジで下ゆでして調理時間を短縮しちゃいます。野菜も食べたいので、春菊などの青菜を入れて楽しんでいます。オレンジページさんのイベント「おでん居酒屋」でも、塩味おでんや牛すじおでんをたくさん作りました。
出汁や種ものの組み合わせ、ご当地ものなど、おでんは千差万別
おでんがおもしろいのは、全国各地に特有の味付けや種ものがあること。
出張で訪れた上海で、味わったピリ辛タレのおでんは思い出深いおでんのひとつです。肉あん入りのオレンジのストライプ模様の派手なもの、リボン状の干し豆腐をぐるぐる巻きにしたものなどおでん種も珍しいものがありました。
また、私は食材を組み合わせて、新しいおいしさを見つけるのが大好き。例えば、おでんに春菊って相性抜群なんですよ。
おでんは冬の料理というイメージがありますが、春は竹の子や新じゃがいもを入れてもおいしいし、夏は出汁と相性抜群のトマトを入れて冷やしおでんにするのも好き。みんなが集まるときは食べやすいように種ものを串に刺しても楽しいですね。
おでんがあればそれで満足
普段のごはんにもなるし、おもてなし料理にもなるし、「おでん」は本当にエライ! おでんがあれば、それだけで満足です。そのおでんの練りもので、いちばん好きなのは、やっぱり「魚河岸あげ®」かな。ふわふわの口当たりで、とてもおいしい。おでんだけじゃなくて、ちょっと焼いたりしてもいけますしね。もちろん、私の本『今夜はおでん』の中にも「魚河岸あげ®」は登場(本では「豆腐揚げ」の名称で記載)します。今回、「魚河岸あげ®」を使ったおでん2品をご紹介します。ぜひ試してみてください。
枝元さんのおすすめおでん2品
あっという間に出来る鶏スペアリブの10分煮おでん
鶏肉と「魚河岸あげ®」のうまみがスープに溶け込んで、10分煮るだけでおいしくなります。春菊はさっと煮るだけでも、くたっとするまで煮ても、どっちもおいしい。春菊の料理ではこれがいちばん好きです。締めは残ったスープで作る煮麺もおすすめ。
このおでんにおすすめのお酒は「日本酒」。やっぱりおでんには日本酒が王道です。燗酒もいいし、キリッと冷やしたのも合いますよ。
材料(4人分)
- 鶏スペアリブ(手羽中・細め)12本くらい(300〜350g)
- 昆布(出汁用)8x15cm
- いりこ8本
- 塩適量
- 魚河岸あげ®4個
- れんこん天(あるいは玉ねぎ天)4個
- 春菊1束
- 柚子の皮、和からし、柚子こしょう
作り方
- 鶏スペアリブは水けをペーパータオルなどでふきとって、塩小さじ2/3をもみ込む。
- 鍋に水6カップ、昆布、頭と内臓を取り除いたいりこ、鶏スペアリブを入れて強めの中火にかける。沸騰したら昆布を引き上げ、白っぽくふわふわとしたアクが出てきたら取る。昆布は半量程度をキッチンばさみで食べやすく切り、鍋に戻す。
- 魚河岸あげ®、れんこん天を加え、味をみて塩少々で調え、弱火で10分煮る。春菊は長さを5cm程度に切って加え、好みの加減で煮る。好みで柚子の皮を散らす。
ポイント
余裕があれば、昆布といりこを水に1〜2時間以上つけておき、鶏スペアリブは塩をまぶしてから20分ほどおいて作るとさらにおいしいですよ。また、私は昆布といりこを水につけて冷蔵庫に入れておき、水出汁として使っています。
春野菜がたっぷり入った お花見おでん
お花見ってけっこう寒いときがあるでしょ。花を眺めたあとは、あったかおでんで温まりましょう。今回の野菜はかぶ、新じゃが、竹の子、祝蕾(しゅくらい)。「魚河岸あげ®」以外の練りものは、小さく切って串に刺しました。
このおでんにおすすめのお酒は「スパークリングワイン」。桜の花の塩漬けをグラスに浮かべると春っぽくて、おうちパーティーにぴったりです。
材料(4人分)
- かつお昆布出汁6〜7カップ
- 鶏ガラスープの素(顆粒)小さじ2
- 塩小さじ2
- 串刺し(各8本分)
- A(はんぺん、生ちくわ、ちくわぶ)
- − はんぺん1枚
- − 生ちくわ(竹笛®)2本
- − ちくわぶ1本
- B(揚ボール、祝蕾、玉こんにゃく)
- − 揚ボール8個
- − 祝蕾※4個
- − 玉こんにゃく8個
- 新じゃがいも(小)8個(約400g)
- 竹の子(水煮)1本(約200g)
- かぶ4個
- しいたけ4〜6個
- 魚河岸あげ®4個
- 木の芽、桜の花の塩漬け、柚子こしょう
作り方
- かつお昆布出汁を取り、鶏ガラスープの素と塩を加え、ベースのスープを作る。
- はんぺんは9等分に角切りにする。生ちくわは長さを4等分に切り、ちくわぶは長さを8等分に切る。
- 揚ボールは沸騰した湯に入れて30秒〜1分ゆで油抜きをし、ざるに上げて湯を切る(油抜きの作業は省略も可)。祝蕾はたて半分に切る。玉こんにゃくは塩小さじ1(分量外)をふってもみ込み、水ですすぎ、アクを取る(こんにゃくによってはアク抜きの必要のないものもあります)。
- 新じゃがいもは皮付きのまま洗って耐熱ボールなどに入れ、ふたかラップをして電子レンジで加熱する(500Wで8分程度)。粗熱がとれたら皮をむく。
- 竹の子は食べやすい大きさに切る。
- かぶは茎を2〜3cm残して皮をむく。
- しいたけは軸を切り、お好みで飾り切りをする。
- 鍋に1の出汁を煮立て、A、Bの串、その他の材料を加えて15〜20分煮る。