- 北陸の「道」と「味」 昔も今も続く食のネットワーク
- 店の個性を映す定番4種 ── 「がん・ちく・とう・だい」
- 繊細にして愛すべき庶民派の種 豆腐
- 金沢市(石川県)のおでん
- 富山県のおでん
- 福井県のおでん
- 家庭のおでん:北陸に多い種もの、各県独自の種もの
- 厚揚げが油揚げ? 油揚げが薄揚げ? そして中揚げも
- 終わりに:道がつないだ味を確かめる
冬の味覚はカニだけではない 美食としておでんも登場!
冬の味覚といえば、真っ先に思い浮かぶのはカニかもしれません。北陸の海が育むブランドガニは、季節の到来を告げる華やかな存在です。しかし、雪の舞う季節、湯気とだしの香りが街を包む情景には、もうひとつの美食──「おでん」もよく似合います。
北陸新幹線が平成27年(2015)に長野〜金沢間で開業し、令和6年(2024)に金沢〜敦賀間が延伸して以来、北陸への旅はぐっと身近になりました。特に印象的だったのは、2017〜2023年にかけて展開されたJR東日本の「かにを食べに北陸へ。」キャンペーンで、関東の主要駅にずらりと並んだブランドガニのポスターや駅飾りが、旅心を刺激されました。
ところが、令和25年(2025)、長年にわたるカニの牙城に変化が生じ、JR東日本のポスターに「おでん」が登場しました。ニューヨーク・タイムズ紙の「2025年に行くべき52カ所」に富山が選出され、雪の北アルプスと街並みを背景に、「富山おでん」が「富山市ガラス美術館」「おわら風の盆」などと並んで紹介されていたのです。
北陸の「道」と「味」 昔も今も続く食のネットワーク
新幹線の開通で首都圏からの訪問客が増え、回転寿司や富山ブラックラーメンなど北陸の海産物由来の味が注目を集めています。
上記のポスター登場は、新幹線延伸が観光動線を変え、外からの目が入ることで地域の「当たり前」が見直される──そうした変化の一端として、北陸に根づくおでんが観光資源としても再評価されつつあるのだと感じます。
では歴史的に「交通」と北陸の食はどのように結びついてきたのでしょうか。北陸の発展はまさに「道」によって支えられてきました。
若狭(現在の福井県)は平安期まで「御食国」として都に海産物を献上しており、日本海の海路は大陸文化の中継点でもありました。ブリ街道を通じて内陸にブリを運んだ経路は、年取り魚を供する習俗を支えました。また、北前船による昆布の流通、越中や廻船問屋の存在は、昆布だしを用いた調理法を大坂へと広め、和食・外食文化の基盤を作りました。
こうした陸と海の動脈が育んだ食文化のネットワークは、現在のおでんにも息づいています。北陸のおでんは昆布だしをベースとする店が多い一方で、専門店ごとにだしや味付けが個性を表現する例もあります(※各専門店ではだしや味付けが各店の個性を表現するため、昆布だしでない場合もあります)。
店の個性を映す定番4種 ── 「がん・ちく・とう・だい」
おでん屋巡ると、その店の特徴を見抜く指標として「どの種を選ぶか」という話になります。先輩から教わったのは「がん(がんもどき)・ちく(ちくわ)・とう(豆腐)・だい(大根)」。店によっては「がんも、袋、豆腐、大根」と表現されることもあります。残念ながら「がんちくとうだい」の来歴は不明ですが、どちらの言い方にも合理性が感じられます。
筆者自身は大根、玉子、ちくわぶ、豆腐といった白い種ものを選ぶことが多く、これらがおでん汁の色にほんのり染まった様子を眺めるのも楽しみの一つです。
繊細にして愛すべき庶民派の種 豆腐
このながでも豆腐が、大根と並んで、店の個性が最もよく表れる素材です。鍋の前で豆腐を静かに菜箸で取り上げる所作や、薬味をのせる立ち振る舞いは、寿司職人を思わせるほど繊細。
富山県内には、おでん屋台から始まった2代目がオーナーを務める居酒屋があります。この店では湯煎式鍋で種ものをゆっくり加熱し、焼き豆腐にはとろろ昆布を乗せて供されます。「とろろ昆布には豆腐が合う。豆腐の甘みをととろ昆布の旨みが引き出す」と店主はお話しされます。秋田の店で出会った、イワシ粉やあおさ、小ネギを添えた工夫を凝らした豆腐も印象的でした。しかし、近年、豆腐を提供するおでん屋が全国的に減少しているのは惜しい限りです。

金沢市(石川県)のおでん
それでは北陸でどのようなおでんが食べられているかを紹介します。
金沢市内に専門店が多く、観光名所としても知られ、日本一おでん店が多い街として紹介されています。豪華な海の幸をはじめ、加賀野菜の代表格である源助大根を使った多彩な種が特徴です。
だしは昆布をベースに、海鮮の旨みが巧みにブレンドされ、豊かな風味を生み出しています。写真にある種は、中央奥から時計回りに車麩、焼ちくわ、ばい貝、香箱ガニの甲羅にカニ身やみそ、内子や外子を盛り付けた「カニ面」、そして蒲鉾とはんぺんの中間の食感を持つ「ふかし」です。大根には崩れにくく味がよく染みる特徴の「源助大根」は用いることもあります。その利点を生かして、過去にはコンビニのカップ入りおでんの種としても提供されたことがあるそうです。

富山県のおでん
富山のおでんは、とろろ昆布をのせるのが特徴で、ラーメン店でもおでんを提供する店があります。また、特徴的なおでん種はすすたけ(根曲がりだけ)、赤巻き、白えび天などで、こんにゃく田楽の郷土料理「あんばやし」を入れる店もあります。おでんのだしは昆布ベースで、塩味が主流です。「あんばやし」は、こんにゃくを串に刺し、生姜入り味噌をかける伝統料理で、お祭りには欠かせない存在でした。


福井県のおでん
福井のおでんは、関西の影響を受けた牛すじのコクが効いただしで、大きく切った厚揚げや糸こんにゃくをじっくり煮るのが特徴です。福井名物の地からしを添えることで、よりご当地らしい味わいが楽しめます。特徴的なの種ものは、厚揚げ、玉子巻、里いもです。足羽山の名物である福井風こんにゃく田楽は、味噌だれには地元産の地からしが入った辛みそ、甘みそが使われます。さつま揚は隣接の岐阜県でも「はんぺん」とも呼ばれることが多いです。


家庭のおでん:北陸に多い種もの、各県独自の種もの
北陸の食の特徴は、昆布だしなどの共通項がある一方、東西に長いことから地域ごとの特色も強く表れます。下の図は、全国的にみて北陸が高い順位で現れるのおでん種です。
金沢のおでん屋では、赤巻き、赤玉、ピンク色のふかし、カニ面などの赤色系の種ものが入る事も特徴のひとつで、おでん鍋の中でも良く映えます。家庭のおでんもその影響を受けているのか定かではありませんが、彩りに人参を入れる家庭もあり、昆布だしの効いた澄んだ汁を生かしたおでん種のチョイスだと思います。


●ばくだん
福井で特に親しまれているが「ばくだん」です。ゆで卵を丸ごとさつま揚げで包んだこの種ものは、見た目の形状から「爆弾」に似ているとされ、名前の由来もそこにあるのではないかと想像されます。
半分に切ると、白身と黄身、そしてすり身の層が美しく現れ、断面の彩りが華やかな盛り付けを演出してくれます。全国的には「玉子巻」と呼ばれ、長崎県では「竜眼(りゅうがん)」と呼ばれることもあります。
●うずら巻
魚のすり身でうずらのゆで卵を包み、揚げたおでん種。うずらの玉子が天面から顔をのぞかせるタイプと、すり身の中にすっぽりと隠れているタイプがあり、鳥の巣のような形状から「巣ごもり」という別名で呼ばれることもあります。
●車麩
小麦グルテンに小麦粉などの合わせ粉を加えバウムクーヘンのように棒に巻いて焼くと、断面は渦巻き模様になり、車輪のように中央に穴が残ります。。
厚揚げが油揚げ? 油揚げが薄揚げ? そして中揚げも
北陸では仏教行事や地域習俗が厚揚げ文化を育み、特に福井では報恩講の習わしから厚揚げを用いる風習が根付いています。地元には豆腐屋が多数存在し、厚揚げのブランド化や「厚揚げフェス」が開催されるなど、厚揚げが日常に深く浸透しています。
呼称も地域で異なり、全国でいう「厚揚げ」を福井では「油揚げ」と、「油揚げ」を「薄揚げ」と呼ぶなど、名称の違いが地域性を物語っています。厚揚げ、薄揚げ、中揚げといった種類の豊富さは北陸ならではの魅力で、スーパーの豆腐売り場も数多くの厚揚げが並んでいて壮観です。
新幹線の終点 敦賀のおでん鍋には豆腐加工品が4種?
敦賀市(福井県)で私が楽しみにしていた居酒屋では、おでん種に豆腐加工品が四種類(薄揚げ、厚揚げ、がんもどき、豆腐)あるとの情報を得ました。しかし私が訪れた日は、残念ながら豆腐とがんもどきはなく、「薄揚げ」と「厚揚げ」だけでした。それでも、薄揚げはだしをよく含み軽やかな口当たりで、厚揚げは外側が香ばしく中はしっとりとしていて、それぞれが関西風の澄んだ黄金色のだしとよくなじみ、大豆の旨みとだしの調和をじわりと感じることができました。
認知度の高い「金沢おでん」や、ラーメン店でも親しまれる「富山おでん」にはおでん協会などの組織があり、話題も多い一方で、福井県も近年は小浜市のおでんが県外で開かれるおでんフェスに出店して積極的にPRを行うなど、地域の味を広める動きが活発になっています。福井市内でも、駅の近くに「福井御田」ののぼりを掲げておでんを提供する店や、八十余年続く老舗があったりと「福井おでん」も見逃せない存在です。
終わりに:道がつないだ味を確かめる
新幹線が敦賀まで延伸し北陸がより身近になった今だからこそ、報恩講や北前船といった過去から続く営みが現在の味わいにどのように影響しているかを、その土地を歩いて確かめたくなります。澄んだ昆布だしや地場の豆腐加工品を一つひとつ味わえば地域の細やかな違いが見えてきます。次に敦賀を訪れるときは、がんもどきや豆腐も含めて一度に味わってみたい──そんな小さな願いを胸に、私は駅をあとにしました。
《調査概要》
<紀文・47都道府県 家庭の鍋料理調査2025>
■調査日程:2025年9月9日〜9月184日
■調査手法:インターネットによる回答
■調査対象:20代〜50代以上の既婚女性4,700人
■各都道府県100人(各20代25人、30代25人、40代25人、50代以上25人)
■調査機関:株式会社マーケティングアプリケーションズおよび株式会社紀文食品
※おでん種の地域分布図(日本地図)は、上記調査の回答者の内、「おでんは作らない」と回答した方を除いた3,703人の集計値です。
