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~おでんデータから読解く日本 Ver.9~


あるある学1回目から8回目では、西日本のおでんについてフォーカスし、牛すじとかまぼこ、南九州豚肉ロードなどの話や、さらに、和食文化における昆布の立ち位置、東西の鍋料理とおでんの関係について筆者の考察なども紹介させていただきました。

今回は、西日本から離れて、中部地方のおでんについて話をします。


海と山の豊かな土地の恵みが、おでんに文化に膨らみを


初等教育で習得する、都道府県に分ける区分である「八地方区分」において、県の数が一番多く、面積も広いのが中部地方です。

中部地方は、日本一長い川「信濃川」、日本一高い山「富士山」を有し、また、太平洋や日本海に面する県や、さらには世界一深い「マリアナ海溝」に連なる「駿河湾」に面する県もあります。

また、中央に日本アルプスが拡がり、交通・結びつきなどが分断、交差をし、様ざまな食文化が育まれてきました。中部地方はこのような地理的環境から食材の種類が豊富で、おでんといってもひとくくりにすることができません。


中部地方のおでん


例えば、北陸のおでんは昆布出汁が強めのすっきりした味わいが特徴で、「金沢おでん」はカニ面が名物、「富山おでん」はかまぼこの一種である赤まき、ススタケ(根曲がり竹)も入ります。

串にさした黒はんぺんやだし粉が有名な静岡おでん、ネギ醤油をかける飯田おでんなど、有名なご当地おでんがたくさんあります。

そして、本日の特集の愛知県、岐阜県の「味噌のおでん」。
味噌をつけるおでんは、青森県の生姜味噌、香川県の二種類の味噌だれ(「白味噌とからし」と「赤味噌と砂糖」)など全国にありますが、味噌で煮込むところはそうそうありません。

まさに中部地方はおでんの見本市といったところでしょう。


「豆味噌を使った料理」の旨さにうなる


おでん屋さん巡りの始めた年、名古屋市内での「正月商品展示会」の仕事を終え、先輩に名古屋駅で「味噌煮込みうどん」をごちそうになりました。

学生時代に食べた名古屋飯は、「手羽先」「小倉トースト」「あんかけスパ」だけ。ここで初めて「豆味噌ワールド」にひきずりこまれたのです。

筆者が「美味しいです」と、ビールを片手にあまりの勢いで完食したたため、その先輩はうどんとは違った豆味噌グルメを教えてくれるということで、「味噌かつ屋」さんに連れていってくれました。
先輩の「時間があれば、土手煮や味噌煮込みおでんも紹介したいんだ」と言っていてこのことがずっと耳に残って。

うどん、かつ以外に豆味噌を使った料理として、愛知県には「五平餅」「岡崎田楽」などがあります。


豆味噌料理

 


くせになる味 途中下車してまでも食べたくなる


先回のあるある学でお話しました「出汁をとった昆布なんか喰えるか論争」が勃発した関西出張はこの翌月。

関西滞在中から先輩の発言の「味噌煮込みおでん」「土手煮」が頭をよぎり、出張の帰路に立ち寄りました。
たった滞在時間3時間でしたが、「味噌煮込みおでん」「土手煮」巡りをして、各店で微妙に味が違っていたりしてビックリして、ますます虜になりました。

おそらく、「名古屋駅の味噌煮込みおでん」の豆味噌のくせのある味に中毒になっていたのかもしれません。


土手煮、味噌おでん

八丁味噌に代表される豆味噌(赤味噌)とは


農林水産物を規定している日本農林規格(JAS)法では、味噌は「大豆を蒸煮したものに、米、麦等の穀類をもとに麹を加え(あるいは大豆そのものを麹にして)、食塩を混合し発酵・熟成させた半固体状のもの」となっています。

愛知県、岐阜県、三重県でよく食されるのは、豆味噌(赤味噌)。大豆を原料に麹菌を繁殖させ、大豆の麹を作り、この豆麹を使って長期間、発酵・熟成させたものが豆味噌となります。長いものになると2年から3年の熟成によって作られる豆味噌は、濃厚なコクと酸味、独特の渋味を感じさせる味わいになります。この豆味噌の銘柄の一つが徳川家康公でおなじみの八丁味噌です。


味噌2種

右が豆味噌


見た目のインパクトほど濃い味ではなく、食べやすい「味噌煮込みおでん」


そして、味噌煮込みおでんとの出会いから6年後、酒造メーカーとのイベントで、「仙台風」「東京風」「名古屋風」「京都風」「高知風」のおでんを再現することになりました。

名古屋風おでんは「味噌煮込みおでん」にしようと決め、再現のため、懐石風おでんの「つる軒」さん、リーズナブルなおでん店の「味軒」さん、土手煮が有名な「石田屋」さん「とん八」さんなどを視察させていただき、各店舗さまの味噌の味わい深さに感動しました。

イベントに来場された方々、ご自身の関連する地域のおでん以外を食べたことない方が多く、一番驚かれたのは「名古屋風の味噌煮込みおでん」でした。
皆さまの感想は「見た目のインパクトほど濃い味ではなく、食べやすい」という意見が多かったという記憶があります。


味噌煮込みおでんは、豆味噌の香り漂うまろやかな味


再現は、料理研究家の渡辺あきこさんに依頼しました。再現のために訪問した店舗の多くは、出汁を使用せず、豆味噌とざらめなどの砂糖類だけで調味していました。味噌のコクとざらめのほんのりとした甘みが各種の種もの味をひきたてているのでしょうか。まさに、「豆味噌」のなせる技と思った次第です。

ある店舗のオーナーは、創業以来、煮込み味噌のベースを継ぎ足し継ぎ足し使っているそう。「家庭の場合はこのような「種味噌」がないので、出汁で種ものを煮て、味噌を付ける方が簡単で一般的」とお話されていました。

「でも、食べてみたい!」という方のために、渡辺さんにレシピを作成いただいきました。

渡辺さんの名古屋風おでんのレシピはこちら


名古屋風おでん

渡辺さんの名古屋風おでん


愛知県のおでん


愛知県のおでんは一般的に味噌だれをかけることが多いですが、名古屋を中心とした外食おでんは味噌煮込みおでんが多いです。

これは、おでんは味噌田楽がルーツとされ、時代を経て江戸では醤油ベースの出汁で煮込むおでん(醤油ベースの一般的なおでんは、“関東煮”とも呼ばれる)が広まり、この“関東煮”に愛知県では味噌をつけて食べる方法が根づいたと考えられています。

外食で多く見られる味噌煮込みおでんは、この味噌だれを煮込んで派生した説、土手煮から派生した説の2つがあります。


全国調査「家庭でよく食べる鍋料理」について


昨年8月に、47都道府県の主婦の方に鍋料理の調査を行い、「家庭で食べた鍋料理のランキング」は以下の通りになりました。

両県ともに、1位は「おでん」で、「豆乳鍋」の順位が全国平均より高いです。豆好きの影響でしようか。
「味噌鍋」は、おでんで味噌味ベースのものを食べているからか、全国の順位とはほぼ同じです。
※調査概要はページの一番下に記載。



「家庭と外食のおでんの味噌関与度」を愛知県と岐阜県限定でアンケート


昨年、「味噌とおでんの関係」について把握するため、 両県限定でアンケートを実施しました。

当アンケートは、上記の調査ように対象を主婦をだけに絞らず、会社帰りに外食をする機会が多いと想定される男性もアンケートの対象にしました。

アンケートの内容は、「家庭のおでん」「外食のおでん」で、以下の選択肢から一番多いものを選んでいただくというものです。

選択肢1:おでん種を味噌で煮込むおでん
選択肢2:おでん種を出汁で煮て、食べる時に味噌をつけるおでん
選択肢3:おでん種を湯で煮て、食べる時に味噌をつけるおでん
選択肢4:おでん種を出汁や醤油で調味するおでん(味噌をつけて食べるおでんは除く)    
選択肢5:おでんは食べない
選択肢6:その他


「おでんには味噌」が60%以上


選択肢1から3を「Yes味噌派」、選択肢4を「No味噌派」として表現したのが以下のグラフです。

愛知県、岐阜県の「家庭のおでん」「外食のおでん」ともに、「Yes味噌派(味噌で煮る、味噌をかける)」が、60~70%となっています。


愛知県のおでん

 

岐阜県のおでん

 


「味噌で煮込むおでん」は外食が多い


味噌で煮るおでんについては、愛知県(家庭:14.9%、外食22.6%)、岐阜県(家庭:10.5%、外食23.4)2%)で、家庭では10%台、外食では20%台(4人に1人)となり、外食での喫食が多いようです。


「味噌をつける食べ方」が圧倒的、 おでん中に味噌壺!のご家庭も


両県とも、「味噌で煮るおでん」「味噌をつけないおでん」より、「味噌をつける食べ方」の方が圧倒的に多い結果となりました。

ご家庭によっては、鍋の中に味噌壺を置き、出汁で煮た大根、里芋、こんにゃく、焼豆腐、ちくわ、はんぺん(←両県ではさつま揚のことを指す)などのおでん種に味噌だれにつけて食すところもあります(下の写真参照)。

また、愛知県のコンビニエンスストアのおでんコーナーには、味噌だれが設置してあるところ、店員さんに申告すれば味噌だれがいただける店舗もあります。おでんと味噌は切っても切れない関係なんですね。


味噌壺

赤印のところが味噌壺 


結論:両県には少なくとも4つのおでんが存在


アンケートやお店巡りの結果、両県には主に以下4つのおでんが存在することがわかりました。

1:種ものを出汁で煮て味噌をつける「出汁煮後味噌だれをつけるおでん」
2:こんにゃくなどを湯で煮て味噌をつける「湯煮後味噌だれをつけるおでん」
3:種ものを「味噌で煮込むおでん」
4:種ものを出汁と醤油などで調味し煮込む「関東煮(辛子などをつける)」

これに、おでんのルーツである「田楽」の岡崎田楽を加えれば5種類。
愛知県と岡崎県はまさにおでんの坩堝(るつぼ)ですね。


《調査概要》
<紀文・47都道府県 家庭の鍋料理調査2023>
■調査日程:2023年7月28日〜8月4日
■調査手法:インターネットによる回答
■調査対象:20代〜50代以上の既婚女性4,700人
■各都道府県100人(各20代25人、30代25人、40代25人、50代以上25人)
■調査機関:株式会社マーケティングアプリケーションズおよび株式会社紀文食品
※おでん種の地域分布図(日本地図)は、上記調査の回答者の内、『昨年の秋冬(2022年9月から2023年2月の間)に、「おでん」をご家庭で作って1回以上食べた方』:1,993人の集計値です。


<愛知県と岐阜県のおでんについて>
■調査日程:2023年10月31日
■調査手法:インターネットによる回答
■居住地:愛知県と岐阜県
■調査対象;30歳以上 70歳以下の男女
■調査人数:各県ともに200人
■調査機関:アイブリッジ株式会社および株式会社紀文食品
※円グラフの数値は、「おでんは食べない」「その他」を選んだ方を除いた集計値をもとに作成しました。


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