「おでん」を世界に通用する「ODEN」へ
老舗建ち並ぶ日本橋に、フレンチの「ODEN」を
フレンチで辣腕を奮うシェフが手掛けるおでんは、ひと味もふた味も違います。それは「ODEN」と横文字で書きたくなるおでんの「コース料理」。「おでん屋 平ちゃん」が店を構える場は、食文化の中心地であり、風格と情緒漂う「日本橋」。多くの人で賑わうメインストリートから裏通りに入ると看板もない扉があり、開けて地下に降りると大人の静かな空間が広がっています。さぁ、どんな「ODEN」と出会えるのか、楽しみで胸が躍ります。
令和の ”劇場型おでん” が誕生
昭和の醤油味で煮込まれたおでんから、平成を迎え新たなおでんがたくさん誕生しました。
最初の波は、関西風の出汁を使って、いくらやとろろ昆布を華やかに添えた「割烹風おでん」の登場です。次に、和風の味を保ちながらも、トマトやタンを加えた「種もの進化系」が続きました。
そして、第三の波として、貝や鶏から取った出汁で味わう「出汁進化系」が広まり、平成の最後に現れたのは、洋風のだしで煮込んで、ポルチーニソースをかけた「多国籍系」のおでんでした。
さらに、令和に入って、これらを凌駕する新たなおでんが登場。それが、フレンチの技法をベースにしたおでんを前菜からコースで楽しむことができる「平ちゃんの”劇場型おでん”」です。
フレンチの技法が息づくおでんの新たな挑戦
オーナーはミシュラン一つ星のフレンチレストラン「ラペ」でシェフを務める松本さん。実家では和歌山県でおでん屋さんを営んでいたそう。「自分の実家がおでん屋さんをやっていまして。直接おでんづくりは学んでいないですが、慣れ親しんだ味で、いつかは自分もと思っていました」と経緯を語ってくれました。
平ちゃんの特徴を尋ねると「おでんを単品で出してもよかったのですが、やはりコースの流れですかね。前菜から始まってコース仕立てにすることで、最後は土鍋ご飯、デザートまでという流れを作りたかった。そういう付加価値をプラスしたかったんです。おでんのコースってあまりないかな」と松本さん。オープンのきっかけは、松本さんがシェフを務めるフレンチレストラン「ラペ」で出した1週間限定イベントのおでんだったそう。思った以上に好評で、毎年の恒例企画になるほどに。そのことが平ちゃん開店への原動力となったとか。
「フレンチもさまざまな出汁を使用するので、おでんと共通する部分はありますね。フレンチの技術をプラスした新しい調理方法でおでんをグレードアップさせたかった」と松本さんは振り返ります。
「おでんのすばらしさを、もっと自由に伝えていいんだよ」
グレードアップしたおでんとは?とお聞きすると「ランチ、ディナーいずれもコース1種類のみで、ソムリエによるペアリングサービスも用意しているんです」
ひと皿ひと皿、順番に出てくる平ちゃんのおでんで特長的なのが、「煮込まない」味付け。“大きな鍋でたくさんの具材をグツグツ煮込んだもの”というおでんの一般的な常識を覆すものです。「濃い醤油味の出汁が染みきったおでんではなく、素材のおいしさを残しつつ、出汁の旨味も感じられるバランスのおでんを目指したかった」と松本さん。
その「平ちゃん」を「若手の活躍の場にもしたい」と考えていた松本さんが抜擢したのが「ラペ」のおでんイベントを手伝っていた根内シェフ。老舗での和食の経験もあり、平ちゃんのコンセプトにも面白さを感じていたそうです。「自由な発想でおでんの出汁のおいしさとすばらしさを伝えていくなら、もっと自由にやっていいんだよと、今は店を任せている根内君に言ったんです」
コース料理ならでは前菜からデザートへの流れを堪能
「自分のアイデアを信じ、おでんらしくないメニューに振り切ったんです」と根内さんが話します。守るべき本質は「おでんの出汁と旬の食材をどう生かすか」だけと。
前菜は、おでんの出汁のジュレと太刀魚とウド、根セロリを一緒に。春巻きはカナダのホッキ貝をクラムチャウダーと合わせたものを中にしのばせ、それを大根で挟み、ほうれん草の葉で包んで揚げています。ほおばると豊潤な味わいが口の中にやさしく広がっていって、そのおいしさに思わず唸らされます。
定番の盛り合わせは、黒米を練り込んだ奈良のこんにゃく、自家製のがんもは新ごぼうとレンコンが入り、ひとつひとつに凝った味付けが丁寧に施されていて、おでんとはこんなにも繊細で上品な料理だったのかと思わせます。
コースが終わりに近づく頃に香り始めるのが土鍋ご飯を炊く匂い。根内さんが言います。「これはサステナブル認証を受けた真鯛の磯辺揚げを出汁で炊いたご飯にのせました。そしてデザートはお店のシフォンケーキの上に、春なので桜の餡のプリン、イチゴはベリーのソフトをのせた季節感満載のパフェを」コースならではの流れを堪能しました。
異端児が引き起こす、イノベーション
日々、おでんの調理方法や味付け、見せ方といった細部にまでこだわり、工夫を重ねているという根内さん。松本さんの「新しいものを生み出すには、たくさんの引き出しが必要」との考えも引き継ぎ、さまざまな郷土料理や調味料を時間が許す限り、自分の舌で確かめているそうです。
店では環境に配慮した養殖場の鯛を使用するなど、サステナブルな食材を多用するとともに、生産者の苦労や思いを共有するように努めています。
日本橋に佇む店は、オープンキッチンをカウンターが取り囲む格調ある設え。ランチは女性客が多く、ディナーは接待などで使われるケースもあるそう。カウンターで料理を出したことがなかったと根内さん。「すごい人見知りで。でもがんばって料理を作りお客様の目の前に、温かい内に、冷たい内に、出来たてで出せる。そして食べた時に『おいしい』と言われるのがとても報われますね。その声を聞いたら後は高みを目指すぞっていうのが今の僕ですね。嬉しいです」
世界に通用する「ODEN」を目指し、革新的なおでんにチャレンジしていく平ちゃんに、これからも目が離せません。
出汁:かつお節 昆布
味付け:醤油 みりん
4月の平ちゃんメニュー5選:
「太刀魚 ウド 根セロリ」
「平ちゃんのスペシャリテおでん春巻き」
「おでんの盛り合わせ」
「真鯛の磯辺揚げの土鍋ご飯」
「ラペスペシャリテ桜とイチゴの春爛漫パフェ」
お店の基本情報 | |
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店名 | 平ちゃん |
住所 | 〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-12-10 B1F |
TEL | 050-3623-1723 |
Webサイト | https://heichan.jp/ |
取材月 | 2023年4月 |