~おでんデータから読解く日本 Ver.6~


あるある学1回目から5回目では、牛すじ、鶏肉、豚肉の全国分布図を用い、牛すじとかまぼこ、鶏肉とクジラの不思議な関係のこと、南九州豚肉ロードのことなどをお話してきました。
1回目からご覧いただいている皆さまはお気づきになったと思いますが、西日本ではおでんに肉類を入れる方が多く種類も豊富です。この他に野菜やいも類を入れる割合も多いのが実態といえるでしょう。

6回目はこの「いも類」にスポットを当ててお話しようと思います。


「収穫量ナンバー1の県が用意率最下位の種ものは?」の続きを読む

~おでんデータから読解く日本 Ver.5~


あるある学1回目から4回目では、牛すじ、鶏肉の全国分布図の他、牛すじとかまぼこ、鶏肉とクジラの2つの不思議な関係をお話してきました。

5回目は、引き続きの肉シリーズ。コクのある味わいが特徴の南九州・沖縄地区のおでんに欠かせない「豚肉と豚肉を使用した種もの」について、スポットを当てたいと思います。


南九州・沖縄地方で特徴的な豚肉のおでん種


なんこつ、あばら肉、豚足

※写真は、しょうゆやみそベースの汁で調理した後の画像です。


左は宮崎県都城市のおでんには欠かせない「なんこつ」。市内のおでん屋さんでも人気の種もので、専門店ではおでん鍋とは別の鍋でやわらかくなるまで煮ることが多いそうです。

真ん中は「あばら肉(スペアリブ)」。豚肉を麦みそや黒糖などで味付けをすることもある鹿児島風おでんに入ります。この他、鹿児島市内には、豚の角煮などで用いられる三枚肉(三枚身という名称もある)を提供するおでん屋さんもあります。

右は「豚足(テビチ)」。沖縄おでんに欠かせない種もので、食べられる部分は皮、肉、すじ、なんこつ。ご家庭で再現する時は「下ゆで済みの市販品」を使うと時短調理になります。


局地的に出現するもの・全国的に出現するもの


豚もつ、ウインナー、ロールキャベツ

串に刺さったものは豚もつで、局所的に出現します。
左は、静岡市内で食されるしょうゆベースの真っ黒の汁で煮込む「しぞーかおでん」の欠かせない種もの。
右は、みそ味の豚もつは、名古屋市内の土手煮をリスペクトした紀文の「名古屋風味噌煮込みおでん」の中にも入っていますのでどうぞお試しくださいと言いたいところですが、出荷が3月2日までの秋冬限定商品でした。今年の秋冬も再販売する予定ですのでどうぞお楽しみに。

おでんの汁にコクが出てボリュームもあるということで人気の「ロールキャベツ」「ウインナー」は、ともに、おでんの世界では新顔の部類で、あるある学4回目で紹介しました「鶏団子」と同じように全国的に出現します。
ウインナーは、少々古いデータですが、2018年の調査で子供に人気のおでん種として4位にあがりました。また、2017年頃からじわりじわりと増えているイタリアおでんを供する店の中には、「サルシッチャ」をおでん種として楽しめるところもありました。
ロールキャベツも、2020年・2021年の調査で「入れてみたいおでん種」に1位にあがるなど、目が離せないアイテムです。


豚肉系おでん種 ご家庭のおでんに入れるランキング ベスト10


豚肉系おでんベスト10

では、2023年に行った「家庭でおでんを作る時に入れる種もの 47都道府県調査」のランキングの順位も、併せてご紹介しましょう。(調査概要はページの一番下に記載)

豚肉を入れる県は42県。南九州・沖縄でベスト3を占めます。東日本で10位以内に入ったのは三重県だけで、西高東低の結果となりました。

豚足を入れる県は12県。1位沖縄県(24.0%)、2位の京都府からの下の順位の県は5%以下となり、局所的な傾向が出ています。

豚もつを入れる県は10県。1位静岡県が14.3%、2位沖縄県と8.0%となり、局所的な傾向が出ています。

ウインナーを入れる県は46県で全国区のおでん種といえましょう。穏やかな西高東低傾向で沖縄県が1位となっています。

ロールキャベツを入れる県は47県でこちらも同じく、穏やかな西高東低傾向で沖縄県が2位となっています。

これらのデータから、豚肉系のおでん種は西高東低の傾向、沖縄県は5つの種ものすべてがベスト10入りしていることがわかります。


宮崎風おでん(都城風)


都城風おでん

ここからは紀文が再現したおでんの写真をもとに、どのようなおでんが南九州・沖縄地区で食されているかをお話します。

宮崎風おでん(都城風)は、合わせ出汁をベースに、農畜産業が盛んな都城市らしく「豚のなんこつ」「キャベツ」「もやし」が入る滋味あふれるおでんです。

このおでんには、長さが15センチ位の「おやし」と呼ばれる大豆もやしを入れることが多く、おでんの季節が到来すると市内のスーパーマーケットにも並びます。
「おやし」の他、スーパーの精肉売り場に、「スペアリブ」とは別に、「豚のなんこつ」という部位が大量に陳列してある光景をみた時は、東日本出身の筆者は驚きました。スーパーの店員さんに、骨付きでなおかつ厚い身質の「豚のなんこつ」は、圧力鍋で煮ると簡単と教えていただきました。
また、観光案内の方にも「キャベツは種ものの一番上にフタをするようにすると美味しくできますよ」と秘技もご教示いただくなど、おでん愛を十分いただいた都城訪問でした。


鹿児島風おでん


鹿児島風おでん

このおでんは料理研究家の渡辺あきこさんの友人である鹿児島在住Hさんのレシピを元にしています。
Hさんは豚あばら肉(スペアリブ)と大根・こんにゃくなどを麦みそ・砂糖などで煮込んだ伝統料理である「とんこつ」をヒントに考えたそうです。

豚が名産の鹿児島風おでんは、汁のベースも豚です。豚の旨味に麦みそで味つけした甘めの汁と、種ものの大豆もやし・つけ揚げ(甘めのさつまあげ)・厚揚げが特徴的です。


沖縄風おでん


沖縄風おでん

日本最南端の沖縄でおでん?と思われる方が大勢いると思いますが、意外におでんはポピュラーなんです。

カツオと昆布のベースの汁が多く、豚足(テビチ)、青菜、昆布、さつまあげ(揚げかまぼこ)が入るのが特徴です。

この他、沖縄の豚肉好きの県民性を表す通り、ソーキやウインナーなどを供するおでん屋さんもあります。


南九州・沖縄おでんロードは豚の道


「南九州・沖縄地方 豚肉おでんロード 」の続きを読む

~おでんデータから読解く日本 Ver.4~


あるある学1回目から3回目では、牛すじの種類や全国分布の他、牛すじとかまぼこ、鶏肉とクジラの2つの不思議な関係などをお話してきました。

4回目は、引き続きの肉シリーズ。今冬、外食おでんで話題沸騰中の「鶏肉」について、ここでは主に「家庭のおでんにおける鶏肉の利用」にスポットを当てて話をしようと思います。


「地域差が出る鶏肉 地域差が出ない鶏団子(鶏肉 後編)」の続きを読む

~おでんデータから読解く日本 Ver.3~

あるある学1回目と2回目では、中四国、九州のおでんにかまぼこが多く入る理由として、牛すじの煮込み時間と関連付けが推測されることや、牛すじの種類と全国分布図を紹介しました。

3回目は、牛肉に引き続き「肉類の中から鶏肉」についてお話していきます。まずは「クジラのピンチヒッターが鶏肉?」というお話を。

おでんの達人 主婦Aさんのクジラと鶏肉の話

以下は、2018年、西日本で家庭のおでんについてフィールド調査をしている時、偶然、声をかけた主婦Aさんの興味深い話。

大阪府に嫁いだAさんは、嫁いだばかりのころ、義理の祖母に「Aさん家のおでん」を習った時に、おでんの中にクジラがほんの少しばかり入っていたのに驚いたそうです。

不思議に思ったAさん、早速、おでんの中のクジラについて、祖母に質問したそうです。

『戦後、クジラは栄養豊富といわれとても安かったのでたくさんおでんに入れた。牛すじも同じく安かったのでよく入れた。出汁にその2つの種ものから良い風味が追加されて、とてもおいしいおでんの汁ができた。

でも、クジラがだんだん高くなって、いつのころからか、代わりに鶏肉を入れるようになった。鶏肉でもクジラに匹敵するおいしさになる。』と教えてくれたそうです。

そして、それ以来ウチのおでんには鶏肉が定番となったらしいです。と、お話しくださいました。

実は、このAさん、話を聞いていくと、ジャガイモの下ごしらえのスーパーテクニックもお持ちのおでんの達人だったことがわかりました。そのテクニックは、あるある学でのイモ類の回の時に紹介しますのでお楽しみに。

京阪に多いおでん種 クジラの皮と舌

クジラのおでん種では、皮の部分の「コロ:写真左」と舌の部分の「サエズリ:写真右」が王道で、京阪地区でよく見られた種ものです。


コロ、サエズリ

※写真は、しょうゆベースの汁で調理した後の画像です。

コロ:クジラの背側の黒皮とその下の脂肪層を「本皮」といい、本皮を加熱して脂肪分を落とした後に乾燥させたものを「干コロ」といいます。そのほとんどが脂肪分とゼラチン質で、特有のコクがあります。京都のおでんの名店「蛸長」さんでは「炒皮」という名前で提供されています。

サエズリ:脂肪分が多く、舌の根元と舌先では味、歯ごたえが違います。生身を見ると脂身に肉質が点々と見え、“霜降り”の逆状態。余談ですが、筆者はサエズリを初めて食べた時あまりのおいしさに3回おかわりをしました。

大阪府出身の作家は サエズリ好き? 


表紙左:光文社文庫  表紙右:講談社文庫

表紙左:光文社文庫  表紙右:講談社文庫

大阪府出身で芥川賞作家・開高健のサエズリ好きも有名ですが、同じく大阪府出身の小説家・田辺聖子の『春情蛸の足』にも、“さて、酒を注文してから、いそいそと、「蛸。それからサエズリ。こんにゃく」と矢つぎ早やに頼む。”とあります。

詳しくは、
紀文アカデミーおでん教室「おでんと文学のページ」へ
https://www.kibun.co.jp/knowledge/oden/culture/bungaku/index.html

大阪市のおでん屋さん 約30年前は

主婦Aさんの言う通り、筆者がおでん屋さん巡りを開始した30年位前の大阪市内の店舗には、コロを提供するところはたくさんありましたし、コロとサエズリの両方を提供するところも少しはありました。

2018年に、過去に伺ったお店の内のいくつかのお店を訪問した時には、コロだけ提供する店も減り、両方提供するがサエズリは夜限定や数量限定になっていたりと様変わりをしてしまったようです。

おでん屋さんの店主に聞いてみると「クジラはどんどん仕入れ価格が上がって高級品になっていく。大阪の若い世代はおでんでクジラを食べたことない人も多いのでは。」とお話されていました。

おでん専門店でさえに高嶺の花なのに、家庭で入れることは少なくなっているんだろうとちょっぴり寂しい感じがしました。

家庭のおでんにクジラを入れるか聞いてみました

全国の4,700人の主婦の方に行った「家庭のおでんの都道府県別種もの調査」で、「家庭のおでんにコロやサエズリなどクジラを入れるか?」という問いに対して、全国で18人が入れると返答。大阪府、京都府でもわずか1人ずつという結果でした。

それ以外の県の内訳は、福島県、茨城県、栃木県、東京都、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、愛媛県、佐賀県でした。

この結果の背景として、京阪地区でクジラのおでんの外食体験をした方、京阪地区ご出身の方、両親が京阪地区ご出身の方達が、ネットショッピングなどで購入されて家庭のおでんに入れたのだろうと推測もできますが、あまりにも数が少ないので想像の範囲を超えないというのが正直なところです。


「クジラの代わりに鶏肉?(鶏肉 前編)」の続きを読む

~おでんデータから読解く日本 Ver.2~

あるある学1回目は、中四国、九州のおでんにかまぼこが多く入れられる理由として、調理時間の長さが関係し、その背景には西日本で人気の「牛すじ」に味をしみこませることが要因の一つであるだろうということを紹介しました。

2回目は、この「牛すじ」について紹介したいと思います。

おでん業界では、周知の事実なのですが、おでんの種ものには、2種類の「すじ」があるってご存じでしたか?

東は魚のすじ 西は肉のすじ

下の写真の左は「昔ながらの東京風おでん」を、右は「福岡風おでん」を再現したものです。

東京風おでんの赤い破線で囲んだものが魚の「すじ」、福岡風おでんの赤い破線で囲んだものが牛肉の「すじ(画像はメンブレン部分です)」です。


東京・大阪おでん

魚のすじは、東京を中心とした老舗おでん専門店などでよく提供される種もの。

白くて四角い形の浮きはんぺんの原料であるサメのすり身を取った後の「筋」などを利用して作る通好みの練りものです。歌舞伎の掛け声にもでてきます。魚のすじの話はこのくらいにし
て、、、

牛肉のおでん種

さて、今回の主役の牛すじ。

まずは、主な牛肉の種ものを4つ紹介します。

写真は左から「すじ肉(赤身)」「メンブレン及びその付近(通称:牛すじ)」「アキレス」「タン」です。

この他、静岡で食される「フワ(肺)」などがあります。このフワは静岡競輪場でも販売していて、フワの独特な食感を求めて、お持ち帰り用を購入するためだけに競輪場に来場される方もいるそうです。


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